CRT栃木放送『開倫塾の時間』(2007年8月4日(土)午前 9:15〜9:25放送内容)
 
人間の安全保障を考える
−アマルティア・セン教授から学ぶ−
 
開倫塾 塾長 林 明夫
 
1.人間の安全保障とは
(1)「人間の生存、生活、尊厳を脅かすあらゆる種類の脅威を包括的に捉え、これらに対する強化する上で鍵となる考え」
 「人間は、生存を脅かされたり、尊厳を冒(おか)されることなく、創造的な生活を営むべき存在である」(故 小渕恵三首相)
(2)「人間の生存と生活を(おそらくは早死や避けられる疾病、読み書きの不自由による多大な不利益などから)守り、維持するもの」
 「私たちの人生に危害や侮辱、軽蔑(けいべつ)を与えうるさまざまな苦難(貧困、困窮、投獄、追放、あるいは読み書きや計算ができないことに関連して受ける冷遇など)を回避することである」
(3)人間の安全保障を考えるとき大切にすべきこと
@個々の人間の生活にしっかり重点をおくこと
A人間がより安全に暮らせるようにする上で、社会(および社会的取り決め)の果たす役割を重視すること
B全般的な自由の拡大よりも、人間の生活が不利益を被るリスクに焦点を絞ること
[人間的発展(人間としての自由を高め、潜在能力を身に付けてそれを獲得すること)を維持する広義の目標とは対称的に]
C(人権全般にではなく)「より基本的な」人権を強調し、「不利益」に特に関心を向けること
 
2.基礎教育は人間の安全保障にどう影響するか
(1)読み書きや計算ができなければ、それだけで生活が脅かされる
(2)人々が収入の多い仕事に就くには、基本教育が重要
*グローバル化が急速に進み、厳密な仕様に沿った品質管理と生産が要求される現在では、基礎教育は決定的に重要
(3)読み書きができなければ、法的権利を理解しそれを行使する能力は著しく制限される
*学校教育を受けていない人が困窮すれば、彼らはその困難な状況を埋め合わせる方法や手段を知らないために、不安定な状態に陥ることも多い
 
3.能力強化(Empowerment エンパワーメント)とは
(1)自己決定能力のこと
(2)必要なものを入手し利用できる法的・社会的・経済的パワーを含む能力や資格を備えること
 
4.カリキュラムを開放的なものにし、理性のおよぶ範囲を広げること。広く学ぶことができることが教育のポイント
 アマルティア・セン著、東郷えりか訳「人間の安全保障」P22〜P30、集英社新書2006年刊より引用
−2007年7月30日記−